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研究活動
経皮的電気刺激による仙骨部褥瘡防止効果についての研究
―健常例及び長期臥床例に対する体圧分散計を用いた検討―
小嶋 純二郎
Key words:Pressure sores(褥創)、electrical stimulation(電気刺激)、Body pressure gauges(体圧計)
 
【諸言】
 
 近い将来、我国は諸外国に比類なき高齢化を迎える。褥創は脊髄損傷、脳血管障害等による長期重症臥床患者に於ける医療上の問題のみならず、寝たきり老人、要援護老人をとりまく、我国超高齢化社会の重要な問題となる。褥創発生の本態は圧迫による組織の虚血性壊死で体圧分布の高い部位が好発部位となる、この外的要因(圧力、張力、剪断力)に加えて、貧血、低タンパク血症、発熱等の内的要因も発生原因となる。今回、褥創最好発部位の仙骨部について、殿部筋群に対する経皮的電気刺激による同部の体圧分散効果について、体圧分布計を用いて検討。また経皮酸素分圧及二酸化炭素分圧(tcPO2,tcPCO2)計を用いて、実験的圧迫虚血に対する経皮的電気刺激の有用性を検討した。


【対象及方法】
 
 健常男子及長期臥床患者(男女各5例、脳血管障害9例、頸髄損傷1例)各々10例を対象とし、ニッタ(株)タクタイルセンサーBIGMATを用いて、

(1)安静仰臥位に於ける仙骨部体圧及体圧分布を測定。
(2)経皮的電気刺激装置SAKAI製LSI−210を用いて、左右各々の大殿筋・中殿筋のmotor pointに導子を貼置し25mA−35mA、80Hzで手動にて同期通電し、仙骨部の最高圧部位4cm2について電気刺激による圧力変化を測定した。

また健常男子10名については、

(3)仙骨部皮膚に日本光電製tcPO2,tcPCO2複合型センサーを装着し、図1の如く仙骨部をくり抜いた木板上に仰臥位をとり、血圧用マンシェットを用いて60mmHgに加圧、10分間の圧迫によるtcPO2,tcPCO2の変化を測定した。

(4)この60mmHg10分間の圧力負荷後マンシェットの空気を抜き、5分間解放した(T群)と、圧力負荷後さらに圧力負荷を持続したまま電気刺激(25mA−30mA、2Hz)を5分間施行した(U群)、圧力負荷後被検者に一瞬ブリッジさせて、その間にスぺーサーを背部と大腿部に置き、両殿部が完全に浮き上がる様にして同様の電気刺激を5分間施行した(V群)、について測定した。


【結果】

(1)安静仰臥位仙骨部体圧及体圧分布について、両群の全例に於いて仙骨正中隆起部が最高圧部位であった。結果を表1に示した。( )内は各々4×4cm2に於ける圧力値を1.0とした値で示し、その平均値を図2長期臥床群と図3正常群に示し、正常群ではBMI22以下の3例についての平均も示した。

(2)電気刺激による仙骨部体圧の変化について結果を表2に示す。健常群では電気刺激により363→122mmHgと分散したが、長期臥床群では変化が認められなかつた。
(3)60mmHg、10分間の圧迫負荷によるtcPO2,tcPCO2の変化について、結果を図4に示す。仙骨部皮膚のtcPO2,tcPCO2は各々69.5±7.2torr、41±2.1torrであった。圧力負荷によりtcPO2は直後より低下し約2分間で0torrとなったが、tcPCO2はこの時点より6.4torr/minで時間に比例して上昇した。
(4)60mmHg10分間の圧力負荷後の各条件に対する、tcPO2,tcPCO2の変化の結果を図5に示す。圧力負荷を解放されたT群ではtcPO2,tcPCO2ともに5分間で正常値に回復した。圧力負荷が持続されながらも2Hzの断続的な電気刺激を加えたU群でも、ほぼ同様に回復した。さらに殿部筋群が充分律動的に収縮し得たV群では、tcPCO2の回復は同様であったが、tcPO2はやや優位とも考えられる結果を示した。

【考察】

 褥創発生の外的要因としては圧力(垂直応力)のみならず、軟部組織の血流遮断に関しては張力(不均等な圧力分布により生じる)、剪断力(不均等な張力により生じる)が重要な因子となる。長期臥床群では健常群よりBMIが小さいにも拘らず、仙骨部最高圧力値は健常群に比して高値を示した。また圧力勾配も大きかった。電気刺激を加えると正常群では図6の如く、殿部筋群が収縮する為に仙骨部に集中していた体圧は両側殿部に分散しえたが、長期臥床群では分散効果は得られなかった。
 
 
 
この為、クロナキシーメーターを用いてS−D曲線を求めたところ、正常な双曲線が得られたにもかかわらず、長期臥床群では体圧分散効果が認められなかった事は、図7に示した様に

正常例(著者)に比して長期臥床例ではすでに廃用性筋萎縮を生じ、殿部筋群が収縮しても体圧を分散さしめるストロークが生じ得ない為と考えられた。支持組織である殿部筋群の萎縮は仙骨部の圧力勾配を増強さしめ、より多くの張力、剪断力が発生すると考えられた。正常群のBMI高値例では圧力勾配が小さい事から、皮下脂肪も重要な支持組織であると考えられ、自律神経系の関与をも含めた組織全体の緊張度について、今後の検討課題と思われた。tcPO2,tcPCO2を用いた検討は、皮膚組織が43℃の加温を要すなど測定原理上の特性1)を考慮する必要はあるが、循環不全による酸素供給の途絶と二酸化炭素の運び出しの障害によりtcPO2が低下しtcPCO2が上昇する。褥創発生に関する圧力と時間の反比例の関係はReswickとRoger2)により閾値曲線が提示されており、60mmHgの圧力負荷3)を加えたところ、tcPO2は0のままtcPCO2は時間に比例して上昇した事から、この状態が続けば皮膚組織は不可逆的変化を呈すると考えられた。10分間経過時点つまりT.U.V群の条件開始時点のtcPO2はいずれも0torr、tcPCO2は各々97、98、93torrであり、T.V.V群とも5分間で、正常値に回復し得た。圧力負荷が継続されたU群に於いても、2Hzの断続的な通電によって不可逆的過程の防止が可能であった。骨格筋は活動により血流量が安静時の30倍に増加し、熱産生も増加する、V群のtcPO2の回復がやや優位か?とも考えられた理由として、電気刺激による筋活動が、すでに43℃の加温状態であった皮膚毛細循環の血管床をも、さらに加温増加させたとは考え難く、皮下に位置する筋活動が皮膚の毛細循環に能動的に働いた為か等、今後の再検討課題である。

【結語】

 殿部筋群に対する経皮的電気刺激は仙骨部体圧分布を分散さしめる事が可能であり、圧力負荷の持続による褥創発生への不可逆的過程をも防止し得る手投として有用性が認められた、また筋萎縮防止効果をも期待できると思われた。

【文献】

1) 柚木裕司,他:呼吸機能の連続モニター。臨床モニター,4:295−303,1990.
2) Kenedi,R.M.,et al:Bedsore Biomechanics.university Park Press.Baltimore:301−310,1976.
3) Bennett,L.,et al:Shear vs Pressure as Causative Factor in Skin Blood Flow O−−cculusion.Arch Phys Med Rehabil.60:309−314,1979.
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